東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)133号 判決
一、着想困難性について
第一引用例に、二個の四開口サーキユレータ、四個のフイルタ、一個の抵抗負荷からなる定インピーダンス形チヤンネル分岐方式が示されていることは当事者間に争いがない。そして成立に争いのない甲第二号証の一(本願明細書)、同第二号証の二・三(手続補正書)によれば、前記分岐方式は本願発明の送信所または受信所のそれぞれに設けられているチヤンネル分岐方式そのものと同一構成であることが認められる。
そして成立に争いのない乙第一号証の一・二・三(昭和三二年八月二〇日電気通信学会発行「改訂最近の電気通信工学の解説」)によれば、本願発明の出願当時、マイクロ波中継において中継器の送受信側にマジツクTと反射濾波器の組合せで構成され、所要の無線チヤンネルのみ分波し、他のチヤンネルはそのまま通過させる機能を有する分波器を用いることは、慣用技術であつたことが認められる。そうしてみると、第一引用例に示されているチヤンネル分岐方式を本願発明のように送信所および受信所において使用するように構成することは容易に推考することができたものということができる。
また第二引用例に自己等化の技術思想自体が示されていることは当事者間に争いがない。ところで成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)を検討して甲第二号証の一・二・三によつて本願発明と対比してみると、第二引用例には伝送路上の全反射の数を考慮しない単なる伝送路の順序転換によつて各チヤンネルの伝播時間特性を含む伝送特性を平均化する一般的な自己等化の技術思想が示されているだけであつて、本願発明のように、フイルタを有する分岐接続を備えた無線施設において各チヤンネルの伝播時間特性を含む伝送特性の平均化を、伝送路上の全反射の数すなわち各チヤンネルのフイルタに対する反射の数が互に等しくなるようにチヤンネルの接続順序を選択して行うという具体的な技術思想は何ら開示されておらず、またこれを示唆するところも認められない。
被告は各チヤンネルの伝送特性を平均化するためには反射の数を等しくすればよいことは自明であるとか、各チヤンネルの伝送特性を等しくすることと、各チヤンネルのフイルタに対する反射の数を互に等しくすることとは全く同義であるとか主張する。一般にフイルタにおける反射によつて伝送特性に歪みを生じることが自明であることは当事者間に争いがない。しかしながら前掲乙第一号証の一・二・三および成立に争いのない乙第二号証の一・二・三(昭和三四年九月五日オーム社発行「マイクロ波通信・機器」)ならびに弁論の全趣旨によつても、フイルタを有する分岐接続を備えた無線施設において各チヤンネルの伝送特性を平均化するために、反射の数と歪みの程度との関係を考慮して反射の数を等しくすることまで自明のことであつたとは到底認めることができない。また、各チヤンネルのフイルタに対する反射の数を互に等しくすると結果的に各チヤンネルの伝送特性が等しくはなるが、単に各チヤンネルの伝送特性を等しくするということ自体には、このような具体的な手段は含まれていないから、各チヤンネルの伝送特性を等しくすることと各チヤンネルのフイルタに対する反射の数を互に等しくすることとは、技術的見地からみて全く同義とはいうことができない。被告の自明等の主張は採用できない。
そうすると、本願発明の特色である各チヤンネルの伝播時間特性を含む伝送特性の平均化を、伝送路上の全反射の数すなわち各チヤンネルのフイルタに対する反射の数が互に等しくなるようにチヤンネルの接続順序を選択して行うという具体的な技術思想が何ら各引用例に開示されていないのに、これを看過して本願発明を容易に推考できるものとした審決の判断は誤つており、この点の原告の主張は理由がある。
二 作用効果について
フイルタを有する分岐接続を備えた無線施設としての本願発明が、各チヤンネルのフイルタに対する反射の数が等しくなるように各チヤンネルの接続順序を変えるという極めて簡単な手段によつて(つまりは相補的なルート対の選択手段の簡略化)、各チヤンネルの伝播時間特性を同じようにすることができ、したがつて各チヤンネルに挿入する補償回路も同じものを使用することができる作用効果があることは当事者間に争いがない。ところで甲第四号証によれば、第二引用例には「二つの連続した中継区分の総体の伝送特性は実際的に等化せられ周波数に無関係となる。」残りの少量の傾斜の等化は増幅器52中の傾斜調節器の制御によつて補償せられる。」との記載があり、そこに示された自己等化によつても各伝送路(チヤンネル)の伝播時間特性を含む伝送特性が等化され、各伝送路に挿入する傾斜調節器(補償器)も周波数に関係がなく同じものを使用することができるという、自己等化させた結果に基づく効果は、抽象的には本願発明と同様に達成できるものと認められる。しかしながら、本願発明とは無線施設として具体的構成を異にし、具体的な等化の方法も異なるから、本願発明の前記効果が第二引用例に示唆されているものとも、これから予想できる範囲のものともいうことはできない。したがつて、本願発明の作用効果は各引用例から期待できないもので顕著であるといわねばならず、審決はこれを看過しておりこの点についての原告の主張も理由がある。
三 結び
そうすると、原告の主張はいずれも理由があり、審決は違法であつて取消をまぬがれない。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
送信所並びに受信所において殊に周波数が狭く接近する多くの高周波チヤンネルが分岐接続を介して共通な高周波束に総合されるような、指向性無線区間における無線施設において、送信側および受信側の分岐接続への個々のチヤンネルの接続は、個々のチヤンネルに対して観察して、送信機から受信機に至る伝送路上の全反射の数すなわち伝播時間ひずみを同時に決定する濾波器減衰側縁の数が各々の他のチヤンネルにおける全反射の数すなわち作用するフイルタ減衰側縁の数に等しくなりまた各々の個々のチヤンネルに対して補償回路網が備えられているように、順序を異にして選択されていることを特徴とする指向性無線区間における無線施設